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第2話 『小さなおいさんと背理法』

私は宇宙人エーコ。
この星に来て久しい。
この星の人類と私の外見は似ているので調査活動は想像していたよりはるかに楽だった。
ただ、この星の人類の知能の低さには目を見張るものがある。

現在私は日本という国のO県O市内で八百屋の店主を装い調査活動を継続しているのだが、地球人から余計なことで疑われることの無いよう「偽装結婚」をした。
パートナーの名は田子作。
巷では田子作主人と呼ばれているようだ。
この田子作は何でもできる便利な男。
だが知能の低さは他の地球人とほぼ同等だ。
久しぶりの休日でも何も創造的な活動をするでもなく横に寝そべりパソコンでネットサーフィンしながら話しかけてきた。

「なぁ地球人て本当は他の星から来たらしいぞ。」

「じゃあそれを背理法を使って証明してみ。」
背理法が何なのかはたしてこの男が知っているかどうだか。

「背理法ってアレだろ?ハイリハイリフヘハイリホー♪ハリハリフヘッホッホー♪て。」
意味不明な歌を突然歌いだすという想定の斜め前45度を突いてくる返し。

「コホン!ま、まず命題を決めます。この場合は人類が地球外生命体であることを証明するのだから『地球人は地球外生命体である』となります。」

「ふんふん。なるほど。」
紙芝居を見上げる小学生のように真剣に私の顔を覗き込んでいる。

「次にこの命題を否定する仮定をする。この場合は『地球人は地球で進化した生物である』となる。そしてこの仮定が否定されることを証明する。」

「ほーほー。それで?」

「つまり命題を否定した仮定が否定されることで命題が正しいことが証明されることになる。」

「なるほど!馬鹿の反対の反対は馬鹿ってのと同じだな?」

「ま、そ、そんな感じですか?」
どこまでもリアクションが小学生の領域から出ない。

「じゃあ簡単じゃん。」
涼しげな顔で言い放つ。

「例えばトカゲって超小さい奴から超大きい奴まで居て、比較すると数百倍になるし、鯨だって猫や犬でさえ種類は違えど進化の過程で大きさで対応してるだろ?」

「言われてみれば確かに。」

「でもよ、コップに入るくらい小さなオイサンとか3m超えるオイサンて居ないじゃん?」

「ま、まあ。」

「てことは人類は地球上で進化したんじゃなくて歴史のどこかで地球に住み着いたから大きさ対応できないんじゃないのか?」

「それは知能が先に発達したから必要がなくなったのでは?」
余りの知能の低さゆえか、常に私の想像の斜め前45度を突いてくる。

「じゃあさ、地球上にはこんなにも沢山の種類の生き物が生きてるのに人類だけが急激に進化したんだ?」
『うっ!た、確かに不自然だ。』

「それに人類の進化の過程も数百年ほど途切れててサルやチンパンジーから進化したってのは現代の考古学ではかなり疑問視されてるんだぞ。」

「確かにそんなニュース見たことが・・・。いや、でもそんなはずは!」

「なぜそう思うんだ?」

「こんな低能な知能しか持たない地球人が我々トンデモ星人と同じ地球外生命体であるはずが無い!!」

「ふっふっふ、ついに化けの皮が剥がれたな。」

「はっ!!ま、まさか?!」

「そうさ、お前が地球外生命体であることを証明したのさ。」

「なんとー!!」

「なーんちゃって。ははは。」
笑いながらプぅ~と気の抜けた放屁をかます田子作。

私の心臓は突然のことでまだドキドキしている。
がようやく理解できた。
『人類は体ではなく脳みその大小で進化が分かれたんだ。そして目の前の男こそ「脳みそが小さいオイサン」やー!!』