田子作迷作劇場トップへ戻る

第23話 『そら豆と商い』

「あぁ~また・・・」
エーコの手の中には皮を剥きかけてポロリと折れたそら豆の中身が転がっている。

「何度言えば分かるんだ?」
イラつく田子作。

「だって難しいですよこれ。蒸したそら豆の分厚い皮を剥きながら型崩れさせずに中身を取り出すなんて。」
不満げに言い返すエーコ。

「はぁ~、これだからいつまで経っても仕事が上達しないんだよ。」
田子作は呆れ果てたと言わんばかりに大袈裟に落胆して見せる。

「そら豆と仕事の上達にどんな関係があるのですか?」
不貞腐れつつも田子作の本意が知りたいエーコ。

「あのな、仕事上の利益のことを専門的には『果実』と言うんだ。商売の基本は売上だけを追いかけてもダメなんだ。ちゃんと適正な利益の確保が重要なんだよ。」

「それは分かりますけどそら豆の身を崩すのとどんな関係があるのですか?」
まだ口先を尖らせているエーコ。

「いいか?いくら利益が大事だからと言って「果実」だけを焦って手に入れようとするとお客さんや取引関係者、その他世間様から嫌われて思うほどの収穫は出来ないんだよ。」

「どうしてですか?」

「じゃあ聞くが商売人が一方的に喜ぶ状況ってどんな時だ?」

「それは儲けが大きい取引がある時でしょ?」

「儲けが大きいと言う事はお客から見れば『取られる付加価値額が大きい』ということで簡単に言えば客は損するってこと。」

「あ、そっか。」

「そんな取引は10年に1度あるかないかだ。そんな商売を目指していては世の中の役に立つ仕事は出来ん。」

「そうですね。ファミレスに行って高級料亭のような金額を取られたら2度と行かなくなりますしね。」

「分かって来たな。それに商売に成れば必ずライバルも存在する。そうなると地味にコツコツと小さな利益を積み上げてゆくのが手堅いだろ?」

「何となく言わんとすることが分かってきたような・・・」

「そら豆の果肉欲しさに適当に皮を剥いて中の果肉を無理やり引っ張り出そうとするから『果実が毀損』するんだ。丁寧に皮を剥くことに意識を集中させることが商売の基本姿勢とも重なるんだよ。」

「そっか~。そら豆の皮むきと言えども奥が深いのですね。」

「分かればよろしい。手本を見せてやる。こうやって、ここをこう押さえながら、あっ!」
田子作の手の中には上半分が折れたそら豆の果肉が転がっている。

「・・・」
言葉を失う二人。

そら豆の茹で過ぎには注意しましょう!(*´з`)プププ