第3話 『無料より高いものは無い』
「またそんな物拾ってきやがって・・・」
半ばあきらめ顔の中年男性。
「だって無料だったんですよ、コレ!」
食い下がる若妻。
「いくら無料でも個人情報をこんなに書かせるのはおかしいだろうが!」
ヒートアップする亭主らしき男。
「でも田子作主人が大好きな『純米酒飲み放題』って書いてたし!!」
『無料日帰り酒蔵旅行』のチラシを右手に握りしめ、さらに食い下がる妻エーコ。
「だからって職業や住所や携帯電話番号に年収まで書かせる申し込み用紙自体、オレオレ詐欺に引っ掛けてください!って言ってるようなもんだろうが!!」
顔を紅潮させて怒る亭主 田子作。
「そんなにこの世は悪い人ばかりだと考える田子作主人の方がおかしいんじゃないですか!?」
徐々に煽られてヒートアップしてきたエーコ。
「ほぅ、じゃあ聞くがお前さん今までに一度も誰にも騙された事が無いと?」
いじわるそうな表情の田子作が詰め寄る。
「ありません!・・・あ、・・・何人かは居ましたけど・・・」
急にトーンダウンするエーコ。
「( ´Д`)=3 フゥ~」
ため息をつく田子作。
「な、なんですか?!」
「自分の胸に手を当てて静かに考えろ。今までに何人にいくら騙されてきた?」
諭すように声のトーンを下げる田子作主人。
「・・・・」
必死に思い出そうとして沈黙してしまったエーコ。
「な、結局この世はそんな所だ。善人なんて滅多に居るもんじゃない。」
エーコの左肩を右手でポンッと軽く叩き話を収めようとする田子作。
「・・・純米酒を捨てるんですか?」
最後の切り札と言わんばかりに喉の奥から絞り出すようにエーコは言葉を発した。
それすらもまるで聞いてない素振りで持論を展開し始める田子作。
「今までの携帯電話会社を思い出してみろ。安くなると喧伝しておきながら不要なオプション契約をさせて、いざ解約の時期になったら5~6時間かけても解約できない仕組みを続けた会社が今では世界的企業だぞ?それを放置した政府も政府だがな。それが今の世の中だ。騙される方が悪い社会になったんだよこの国は。」
流石にこれには反論できないエーコ。
散々安さにつられて携帯電話会社を変えたもののどこも大差なく結局高い料金を毎月支払わされてきたのだ。
「でも4割引きの圧力が政府から掛かってきたので携帯電話会社も妥協し始めたじゃないですか?」
「よーく見ろ。そもそものケースがレアケースを引っ張り出して『最大4割安くなる!』とかほざいてるだけだろうが!」
確かに契約の大多数を占める月平均5000円前後の契約に関してみればむしろ割高感さえ感じる変更である。
「圧倒的多数の低所得者層から搾り取るだけ搾り取って株式配当で高額所得者に利益を還元する・・・」
データーを見せられ呆然とするエーコ。
「これが現実だ。数字と統計処理に弱い奴はいつまでも食い物にされるということだな。」
「じゃあ、私たちは何を信じたら良いのですか?」
珍しく真剣な表情のエーコ。
「簡単だ。自分自身の感性や直感を大事にすることだ。」
「感性・・・直観・・?」
「目先の損得よりも人として大事なことを最優先するということだ。」
「人として・・・」
ハッとするエーコ。
「じゃあ人でなくて宇宙人の場合はどうすれば?」
「うるせぇよ!」