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第49話 『金持ちになりたい?』

「まただよ。」

「どうしたのですか?苦虫を噛み潰したような顔になってますよ。」

「夢コーティングの受講生から提出された夢を書いた用紙を見てるんだが大体皆同じ夢が書かれてるんだよ。」

「分かった気がします。『お金持ちになりたい!』じゃないですか?」

「勘がいいな。正解だよ。」

「だってどんな夢を叶えるにもお金は不可欠だと考えがちですから。」

「確かにある程度は必要だけど何もお金持ちになる必要はないだろうよ。」

「でもお金持ちになればいつでも叶えたい夢を叶えられる気がするじゃないですか。」

「それがそうでもないんだよ。むしろ寿命を縮めることも多いんだぞ。」

「どうしてですか?」

「努力が伴わないのに大金を手にすると使い方を間違えるし、また簡単に金儲けができると過信するからだ。」

「どんな使い方が間違いなんですか?」

「例えば好きな料理ばかり食べて食が偏ったり、深酒しすぎてアル中になったり。他にもこれ見よがしに他人に見せつけるような成金丸出しの使い方だな。」

「本人が気持ち良ければ良いのでは?誰も本人が自意識過剰なほどには見てませんし。」

「むしろ普通の人は『貧乏人が持ちなれない金持ってトチ狂ってるわ。』くらいにしかみてないだろうが、金に困ってる奴は違うぞ。金欲しさに犯罪であろうが奪いたいと考えるもんだ。」

「そういえば最近読んだニュースで実際にあった犯罪にそんなのがありました!死んだ母親が娘に残した数百万円のせいで幼馴染に殺されたのだとか。」

「そんなのはザラに転がってるよ。要は人間は嫉む生き物で、それが原因で犯罪を犯してもおかしくないということだ。」

「怖いですね。でもそれじゃあお金持ちにならない方が良いのでしょうか?」

「お金持ちてのはあくまで結果としてのその時の状態でしかない。悪いことをして稼いでも金さえ持ってれば『金持ち』だ。大事なことは『一体その金はどうやって集まってきて今後どのように使われて循環してゆくか?』だな。」

「金は天下の回り物と言う訳ですね!でも最近では使っても回ってくるのが少ない気がします。」

「そりゃそうだ。世界の全資産の半分をわずか8人が握ってて残りをその他の70億人で回してるんだからな。グローバリズムを広げたのもこいつらがぼろ儲けする為だったというのが今の大勢の見方だ。」

「お金持ちになっても回さないんだったら無いのと等しいのだから取り上げたらいいんじゃないですか?」

「ようやく世界的に協調の動きが出てきたけどまだまだ無理だろうな。彼らだってあらゆる法律や権力に守られてるからな。」

「それじゃあいくら夢に『お金持ちになりたい』と書いても無駄じゃないですか?」

「違うぞ。要は『自分の夢を叶えながらお金をきちんと回す人』になれば欲しいものを手に入れながらも他人には対価としてのお金を回すことになるだろ?」

「そっか!」

「何でもかんでも簡単に手に入る夢は夢とは言わないな。だからこそ良いんだよ。喰いたいけど食えない物があるから人は頑張れるんだよ。」

「確かに!!先月なんかずっとウナギが食べたい!と思っていたのになかなか料理に入ってなくて飢えていたのに先日の夜弁に『う巻き』が入ってて夢見心地になりました!!」

「あ、お前のはアナゴ煮だったけどな。」

「がーーーーん!ま、でも美味しかったし聞かなければ分からなかったのでOKです!!」

「お前の夢ってチープで良いな。羨ましさを通り越して感心するよ。」

「でも昔から私の夢は『毎日健康的で超美味しい食事を食べ続けたい!』というものでしたから今は叶ってる状態ですね。」

「ある意味『お金持ちよりも裕福』かもな。でもそれが夢の本質だ。」

「というと?」

「金ばかりが夢を叶える道具じゃないてことだ。」

「私の場合は『他人のためにいつも必死に頑張ってるのにあまり報われない主人を陰で支える』ことで自分の夢が叶いましたしね。」

「『あまり報われない』てのが引っかかるが、ま、そんなところだ。何でもかんでも金で支払う必要もないし金で買える保証もないのがこの世の中だ。」

「でも一度でもこんな『美味しい状況』になった事が無い人はやっぱり『お金さえあれば』って考えちゃうんでしょうね?」

「それも道理だな。だから洗濯船グループには『25歳ルール』てのがあるんだ。」

「『25歳の誕生日までの人なら可能な限り先輩メンバー全員で甘やかす』というやつですね?でもなぜ25歳なのですか?」

「25歳までに大体そいつらしさ、つまりアイデンティティというのが確立されるからだ。25歳まで必死に自分の理想に向かって頑張ってきた奴はそれ以降も同じように頑張り続けるし、逆にだらしなく生きてきた奴はそれ以降もだらしない。だから25歳を過ぎたらどんな状況でも独り立ちしてもらう。」

「でも若くてお金が無くて能力も人脈もない人でも『それなりに夢を叶えたような楽しい記憶』が残るんですね?」

「そういうこと。一度でも成功体験があればその後の人生も自分自身を信じることが出来るんだよ。」

「じゃあ田子作主人は今後は報酬無しでも働けますね!!」

「なぜそうなる?まずは正当な対価を支払ってから言え!あくまで自分の夢は自分にだけ有効だ。人を巻き込むな!」

「ウナギじゃなくてアナゴを巻き込んだ仕返しですよ。」(*´ω`*)プププ