洗濯船グルテンフリー漂流記

「くっそー!!どうしてっこんなに激安で超美味しいのに客が思ったほども増えないんだ!!」

「田子作主人よ、まだ長浜神社前に引っ越してきて営業3年も経っていないですよ。」

「ばかやろー!府内町から入れたら既に4年は経過してんだろうが!!」

「そうは言いますが大分市中心部に出店したものの委託販売で他人の商品を販売してたけど余りの来客の無さから少し腕に覚えのある自分の料理を販売する飲食店になっただけじゃないですか。」

「何を言うか、元々レストランで広い厨房があったから集客のために仕方なくシェフになったんだろうが!!」

「いや、だからソレですよ。仕方なくシェフになったてのがどうかと。世間では飲食店で修業してコツコツお金を貯めてようやく自分の城を築く人が居るんですよ。それをほとんど棚ぼた的に手に入れた挙句、すぐに人気のお弁当屋さんになりーの、新店舗に引っ越しーの、って十分すぎませんか?」

「とはいえ、ここだって毎月の固定費が嵩むんだぞ。それになあ、なぜか知らんがうちの常連って不思議と健康状態に本気で困ってる人が多くて色々と普通の調味料や食材が使えないんだぞ!」

「それは田子作主人が『アレルギーとか病気とか色々対応しますよ』って格好つけるからですよ。本気で困ってるからうちしか対応してる飲食店が無くて来るんですよ。」

「すぐに稼げる料理ってのは大分の場合、大体小麦粉を良く使うものが多いのに小麦アレルギーの人が多いから使えんし。いったい何をウリにしたらお客を増やせるんだよぉ。」

「神社の真ん前にお店が見つかった時から神様に『お前はここで見張ってやるから困っている人の役に立つのじゃぞ。』と言われてるんですよ。」

「何度も小麦粉使った揚げ物とかヒット商品になりそうなものを発売するたびに極度のアレルギーの人がやってきて小麦粉自体を店に置けなくなってしまったのはもしかすると本当に神様の思し召しか?」

「そもそも当店主催の異業種交流会の親しいメンバーさんにも小麦アレルギーの方が居ますよね?」

「そうだよ。彼のためにも小麦を使わなくなったんだよ。」

「だったらそれは友情ですよね?」

「確かに友情ではある、が、このままの状態では店がヤバいって。」

「でも何度売れ筋商品の販売に着手してもなぜかグルテンフリーに押し戻されてますよね?」

「まさにそれが一番問題なんだよ。どうして次々と小麦アレルギーやら卵アレルギーやらの人が来るんだよ?そんなに宣伝してないぞ?」

「本気で困ってるからですよ。しかも小麦粉使わない方が美味しい上に太りにくいし胃もたれもないし良いことづくめですから仕方がありませんよ。」

「その割には客が思う程の速度で増えんぞ?」

「そもそも困るほどの人ってそんなに人数多くなくないですか?」

「困ってる人を助けるのも良いけどだからって俺が困るのは困るんだよ。この際バッサリとグルテンフリーなんて止めるか?!」

「田子作主人のバカーッ!!これしきの事で気高い理想を捨てるのですか!!」

「エ、エーコ、お前・・・」

「小麦粉やサラダ油や砂糖を使わず高くても米粉やエクストラバージンオリーブオイルやラードに甜菜オリゴ糖に代替したおかげで『平成の美貌のヘレンケラー』と言われた私の諸々の不具合も改善したじゃないですか!!」

「・・す、すまん。耳糞が詰まって話の途中から聞き取れんかった。もう一度頼む。」

「だから田子作主人が料理に拘ってくれたおかげで『平成の虞美人』と言われた私が抱える諸々の病気が治ったじゃないですかって言ったんですよ!」

「・・・すまん。かなりノイズが多くてやはり聞き取れん。何を言ってるのかさっぱり理解できなくなった。」

「はぁ~お年寄りはこれだから・・・」

「誰が年寄りじゃーっ!!自分のことを高めに形容するから話の真意を見失うんじゃ、このブスが!!」

「ぶ、ぶ、ぶ、ブス~っ!?」

「それがどうした?慢性鼻炎で花粉症でイビキがひどくて記憶力0のくせに!!」

「今は違います!付け加えるなら万年アカギレで手の指はゾウさんみたいだったし人の話の半分も理解出来てなかったしいつも眠たくてしょうがなくって月の半分は返事するのも億劫でした!そんな幾重にも重なった私の病状を一気に解決してくれたのが田子作主人のご飯だったんです!!」

「・・・そ、そういえば、いつのまにか『普通の人』みたいになってたなお前・・・」

「普通ではなく前にも増して美しさが・・・」

「うるせえよ。とにかくお前がそこまで言うならもう少しグルテンフリー他諸々こだわったスタイルで続けてみるか。」

「そうですよ。それでこそ男です。」

「お前に褒められてもあんまり嬉しくはないが困ってる人は本当に困ってるしな。じゃあ代わりに他からの収入を増やさんとな。」

「お!ようやくやる気が出てきましたね!そこでお勧めのバイトがこちらになります。」

「ゴルァ!なんで俺がバイトするんだよ?!お前が働け。もう完全体なんだろうが?」

「いやぁ、完全体と言うかまだ病み上がりレベルというか・・・」

「給料も支払わずに散々こき使ってどこまで俺から搾取する気じゃ!!」

「ひぇ~。わ、分かりました!では10年以上前からユーチューバーとして活動してきたのでここらで本気で動画制作を始めませんか?」

「今流行りのユーチューバーに本格復帰てことか?で、何をするんだ?」

「以前グーブログに4コマ漫画連載したじゃないですか?アレをも少し丁寧に描いてアニメにしませんか?」

「動画編集は今までにかなりさせてたから良いかもな。」

「では私が編集するので原画とキャラクターデザイン、あとストーリーテリングとか諸々お願いしますね!」

「俺のパートが滅茶苦茶多いじゃねーか!!」

「その代わり、広告収益は田子作主人の給料にし・ま・す・か・ら♡」

「ま、まじか!??」

「はい、収益があがればですけどね!」

「よーし、やったるぞ!!」

かくして原料比率が高く収益性の極端に低いグルテンフリーのお店を維持するために新たにユーチューバーとしてのイバラの道を歩む田子作でした。チャンチャン