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第4話 『愛に迷子の大人たち 後編』

結局青年は尻込みしてしまったのでこれ以上話は進まず時が流れた。

季節は廻り、店の前の神社の銀杏の大木がハラハラと落ち葉を落とすようになっていた。

「折角のチャンスだったんだけどなぁ。どうして尻込みするかね?」
田子作主人は春先の彼とのやり取りを不意に思い出したようです。
いつも一緒にいると少々主語が無かったり、細かな説明が無くても何の事を話してるのかピンと来ちゃうんですね。

「『本当に欲しいものは諦めた時に手に入る』って何かの本で読んだような気が・・・?」

「何だか禅問答みたいだな。でも案外真実かもな。」
テーブルに肘をつきぼんやりと遠くを見るような田子作主人。

「だったらお金が欲しい人ってお金を諦めたら手に入るんですか?」
我ながら良いことを思いついたと思った。

「それがなかなか出来ないんだよ。毎日何かしらの支払いがあると、いつまでにいくら用意しないといけない!とかって焦るじゃん。」

「そーですよねぇ。お金儲けも恋愛も一体どうすれば上手く行くのでしょう?」

「有料なら教えてやるぞ。」
チロッと横目で田子作主人がこちらを見る。

「お客さんからもらった14年物のワイン、調理酒に使っちゃおうかなぁ?」

「分かった!教えてやるからそのワインは勘弁してくれ!」
案外チョロい田子作であった。

「要は自分の欲望を追求しつつも自分の欲望を忘れると言う事が大事なんだよ。」
コンサルタント時代のように急に賢い表情で説明が始まった。

「たった今それが難しいと。」

「だからちょっとした工夫が要るんだよ。巨大迷路を必ず潜り抜ける技と同じなんだよ。」
試すように私の目を覗く。

「巨大迷路を必ず潜り抜けることって日常には全くないので分かりません。」

「『迷路を脱出したい!』という願望を持ったまま、それを忘れて自動的にゴールできる方法を淡々と続けるだけで誰でも迷路を抜け出ることはできるんだよ。」

「本当ですか!?」
知りたい!!

「右でも左でも良いからどちらかの壁から決して手を放さずに前に進むだけだ。通路が行き止まりでも壁は続いてる訳だから戻ってくる。つまり壁は必ず出口につながっているんだ。」
久しぶりのドヤ顔を見た気がする。

「確かに迷路はそうですが、お金持ちになることや恋愛が成就することにも応用できますか?」

「小賢しいテクニックは必要ない。人様から愛される商品やサービスの提供、人様から愛される生き方、最愛の人に出会うまで諦めずにそれを続けるだけだ。」

「本当にそれだけで良いのですか?」

「他者からの評価は相対的なものだ。肝心なのは自分がされたら嬉しいかどうか。つまり自分は何で喜ぶのか、それはなぜかという風に徹底的に自分自身の欲望を知り、その欲望がどれだけ多くの人と重なるのかを知ること。」

「つまり自分を徹底的に満足させる方法を知ることで他人も満足させることが出来るようになると言う事ですか?」
ようやく腑に落ちました!!

「あ、でも・・・」
あることが気になります。

「なんだ?」

「いつまでにって期限を切ってゴールすることは可能なのかなと思いまして。」
いくら夢が叶っても死ぬ直前だと楽しむ暇が無いしなぁ。

「心の底から本当に願っているなら超高速で活動するか、自分が居なくても自動的に活動を継続してくれる仕組みを作るかだな。そうすりゃある程度は期限通りに事が進むよ。」
また難しいことを・・・

「そこが一番難しいじゃないですか。」

「だからここからは特別料金な。」
不敵な笑みを浮かべながら私の手から年代物のワインを引っ手繰るとさっさと自宅へ戻ってしまいました。

なんかモヤッとする私。
続く・・・