第10話 『君の名はもやし?』
「やっぱりな。」
疑わしい表情で携帯電話を置くと何気に呟く田子作。
「どうしたのですか?」
「先日電話でモヤシの大量注文の問い合わせをしてきた客が、結局直接もやし屋さんに発注したらしいんだが受け取り当日になっても音沙汰無しなんだと。全国を移動する移動販売の人を相手にする時はちゃんと電話番号と会社名を聞いたうえで現金先払いにしてもらわんと危険だな。」
「そういえば当店も以前お祭りに来ていた露店の方から納品代金を貰い損ないそうになりましたしね。」
「少額取引は訴訟を起こす方が手間も金もかかる上に相手の住所がわからなければそもそも訴状が届かないということで裁判にすらならん。いつもニコニコ現金払いが一番だな。」
「何とか連絡が取れると良いですね、もやし屋さん。」
「困り果てた声だったしな。本人も電話番号も記録してなかったからどうしようもないがな。」
情報化社会は商売のチャンスを広げると同時に危険な取引に巻き込まれるリスクも増える。
スマホを落としたヒロインが地獄に落ちる内容の映画がヒットしたのも頷ける。
便利だけどその便利さゆえに自分の全てを預けてしまうとピンチに陥る。
不要な情報は出来るだけ出さない方が良い。
情報化社会の中で情報閉鎖する社会。
何事も裏と表があるということ。
「ところでさっき配達に行ったお金はどうした?レジを打ったか?」
「・・・」
口を真一文字に結ぶ妻エーコ。
「ん?どうした?」
「余計な情報は今後一切発しません。」
「ばかやろう!俺にまで秘密にしてどうするんだよ!」
「いえ、壁に耳ヤニ、障子にメアリー。どこで誰が情報を盗もとしてるか分かったものではありません!」
「はは~ん、さてはお前集金した金でチョコとか買ったな?」
「そ、そんなチョコはありませんよ。」
「思いっきりバレてるだろうが!!」
「はっ!つい口が・・・」
「お前が一番ヤバイじゃねぇか!!」
この後エーコは特大拳骨を貰ったのは言わずもがな。
『とかくこの世は生き難い。』
夏目漱石の言葉が脳裏をかすめる田子作であった。