第16話 『手書きチラシでこんにちは!』
「駅の南口ではクラフトビール祭り、北口では全国ラーメン博、大分唯一のデパートでは全国の旨い物展。これじゃあここいらを歩く人はいるはずないよな。」
どこか寂し気な田子作主人。
「それでもゴールデンウィーク中にもかかわらず沢山の常連さんがご利用いただいたじゃないですか。」
励ます私。
「確かに有難かったな。でもやっぱ知名度の低さは致命的だな。」
珍しくため息をつく田子作主人。
「こんな時こそ徹底した5S活動ですよ!」
以前田子作主人が主催する無料の経営学習会で習ったことを思い出した。
「だな。手探りでがむしゃらに働いてきたけどそろそろレイアウトも変えた方が良い頃だしな。」
気づけばすぐに荷物で手狭になってしまうお店。
毎日清掃をしてるけどやはり所々が汚れてしまう。
久しぶりにまとまった時間を掃除や模様替えに使い徐々に前向きな気持ちを取り戻してきた私たち。
「( ´Д`)=3 フゥ」
思わず二人で声を揃えてしまった。
「さてとこれで運気も上がっただろうし今度は宣伝でもするか。」
「あれ?田子作主人はCMは嫌いだって言ってなかったですか?」
「誰がマスコミを使うって言ったよ。手書きのチラシを新聞に折り込んでもらうだけだ。」
「今時手書きですか?パソコンなら綺麗で速いですよ?」
「馬鹿だな、それじゃあ『ぬくもり』が伝わらないだろうが。」
「ぬくもりと売り上げとどんな関係があるというのですか?」
「人はみな一人で生きていくのは不安だし寂しいだろ?ぬくもりが伝われば『どんな店だろう、行ってみようかな?』って感じるもんなんだよ。」
「そうかなぁ?」
「とにかくやってみれば分かるさ。」
ゴールデンウィーク最終日、近所だけ新聞屋さんにチラシを折り込んでもらった。
日が開けて今日。
「チラシを見てお弁当買いに来たんだけど?」
田子作主人の言った通り早速お客様がご来店。
「ありがとうございます!!」
たった300枚しか刷らなかったのに効果絶大。
結局お昼の日替わり弁当はいつもより10%増し、夜弁当の予約に至ってはいつもの倍になった。
「ほらな?人は物を買うだけじゃなくて温もりを感じる生き物なんだよ。人気の居酒屋さんは大体内装に木を多用してるんだよ。これもやっぱり温もりを感じるからじゃないか?」
「そうか!温ければ良いのですね!!」
久しぶりに閃いた!
善は急げ、行動あるのみ!!
「ちょっと待て~い!!どこに行く気か分かった気がする。」
「まさか!」
「お前、もしかして押し入れから暖房器具を持ち出そうとして無いか?」
「なんとー!バレちゃいました!!」
「今から初夏になろうっていうのに何考えてんだ?温けりゃいいってもんじゃないだろ!」
「そうなのですか?」
「当たり前だろうがー!!」
「田子作主人の方こそ温さを通り越して熱くなってますよ?」
「誰のせいだ、コノヤロー!!」
今日もカラカい甲斐のある田子作主人でした。