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第21話 『丁度の男』

「はぁう~・・・」
深いため息をつく田子作。

「やっぱり今日も『丁度』でしたね・・・」
同じく疲れ切った様子の妻エーコ。

「本当に嬉しくも有難い事でと心底思ってる。ただ・・・」
何かを言いかけて言葉を飲み込む田子作。

「きっとこれは人徳貯金なのです。むしろ歓迎すべきだとは思います・・・」
なんとか田子作を元気つけようとする妻エーコ。

「結局今日も自分たちが食べる分だけきっちり無くなるという・・・ね・・」
呟くでもなく、かといって覇気のかけらもない。
敢えて表現するとすれば「もう、どうにでもしてくれ」と言った投げやりな雰囲気すら漂わせる田子作。

厨房に掛けられたアナログ時計の針は14時を少し過ぎた所を指している。

「台風直下のイベントに急遽参加すれば私たちが居る時間だけきっちり晴れたり、明日のために仕込んだ料理を作り過ぎれば夕方にはほぼ完売したり、これだけ毎日奇跡が起こっているとこれはもう人智を超えているとしか説明のしようがないと数学博士も言ってたし・・・」

「もう何も作る気がしない。お前が何か作ってくれ・・・」
前日から20時間以上何も食べていない田子作は憔悴しきったようだ。

「私も気が萎えて・・・。そうだ!烏骨鶏の卵があるじゃないですか!!」

「おぉ!!そうだ!あれさえあれば完全食だ。TKG(卵かけご飯)にしよう!!」
希望を見出した二人はすぐさま冷蔵庫に駆け寄る。
勢い良く扉を開ける。

「・・・あ。」
冷蔵庫の扉側の卵置き場には烏骨鶏の卵が一つカップに収まっていた。

「やっぱり田子作主人は『丁度の男』なのですね!」
白々しくも大きな声でエーコはそう言うと、最後の一つの烏骨鶏卵を掴むと田子作の脇をすり抜け食堂へ消えた。
余りの手際に低血糖気味の田子作は何が起こったのか理解できずに少しの間ぼんやりしていた。
十数秒後、ようやく事態を把握しエーコの後を追うが既に卵の大半は彼女の口の中へ送りこまれていたのだった。

「くっ、もう少しだけで良い、『ゆとりのある男』になりたい!!」
エーコに見られまいと男泣きをひた隠す田子作であった。