第42話 『地球上のどこよりも遠い所へ一瞬で行く方法?』
「もう嫌だぁぁぁぁぁ~っ!!」
「どうしたのですか田子作主人よ。」
「来る日も来る日も年中無休で朝から晩までこの小さな厨房に閉篭もって人のために飯を作るのが嫌になったんだぁぁぁぁっ!!」
「あんなに楽しんでたのに突然どうしたのですか?」
「2,3日ごとに色んな支払いがどっさり来るは金は残ってないわでいつまで経っても経済的に楽にならん!俺は奴隷じゃねぇ!!」
「だから安すぎるのに良くし過ぎてるっていつも言ってるじゃないですか。」
「じゃあ『普通の価格』や『普通の弁当』にしたら客が来ると思うか、ここで?」
「まぁ無理でしょうね。お金持ってないですからここらの人は。」
「持ってない訳ないだろうが!頭にきた。」
「どうするのですか?」
「来月からお得意様の定義を厳格にする。」
「消費税が上がる訳ですし仕方がないことですよ。」
「いいや、消費税とか関係ない。毎月3000円以上の青果購入かディナーか夜弁当購入しない良いとこ取りの客には健康食は提供しない。砂糖タップリ残留農薬タップリの小麦粉で原価を徹底的に落としてきっちり利益を確保することに決めた!」
「それは仕方がないですよ。だって『こんな健康的な弁当が食べたい!』という声に支えられて始めたんだし継続できるようにほとんどのお得意様はルールをきっちり守って頂いてるんですから。」
「暗黙の紳士協定だから大目に見てきたが俺だけが苦しむ義理はない。相互扶助の精神が無い客には『それなりの弁当』しか作らん!」
「ソレで良いじゃないですか。それを今のお得意さんにちゃんとお伝えすれば。」
「・・・そうする・・・」
「少しは気が晴れましたか?」
「・・・旅に出たい・・・(ノд-。)クスン」
「分かりました。一瞬で世界中のどこよりも遠くの世界を見せてあげましょう!!」
「そんな事できるのか?ネットとかじゃダメだからな。リアルじゃないと。|д゚)チラッ」
「私を誰だと思ってるんですか?」
「・・・宇宙人エーコ?」
「そうですよ。それでは店の前の道路まで出て来てください。」
「なんだよぉ。子供だましみたいなのは無しだからなぁ。」
「では目を閉じてください。」
「こ、こうか?」
「薄目開けてたらダメですよぉ。」
「はい。ではこっちを向いて。この角度でゆっくり目を開けてみてください。」
「・・・満月?」
「はい。地球上で一番遠い所は真反対の所で20037.5km先。月までは約38万km。」
「・・・遠いんだな月って・・・」
「仮に2万km先まで平地になっても人間の視力では見ることは出来ません。」
「月はこんなにくっきり見えてるのに・・・」
「今夜の月は今年一番の小さな満月なのですよ。」
「え?・・・こんなに綺麗なのに・・・?」
「どんなに小さなお月様でも心を鎮めて見ればその素晴らしさに気が付くものです。」
「・・・うちのお得意さんみたいだな。」
「静かな心であるものをあるがままに受け入れる。人は『自分が見たいように現実を見る』癖があるのです。どうですか?お月様は綺麗ですか?」
「・・・絶景だよ・・・。ありがとうな。・・・でも調子の良いお得意もどきは許さんがな。」
「小さいのは月だけじゃないようですね。やれやれ。(´Д`)ハァ…~」