第43話 『僕と先生の1000日戦争』
「けっ!!やってられっかてんだ!!」
「どうしたのですか田子作主人よ、やけに荒れて戻ってきた訳は?」
「訳もヘチマもあるかってんだよ!こちとら毎日4時間の睡眠時間で必死に働いてるってぇのにうちの商売に口挟みやがって!!」
「あ~、『先生』にまた何か言われたのですね?」
「大体金融に強いから『先生』って持ち上げてたら図に乗りやがって!」
「今度は何を注意されたのですか?」
「食品関係は消費税増税と関係ないのに価格をアップしろだってよ。自分で飲食商売やってから言えよな!この業界は競争が激しくて1円値上げするのも皆ヒヤヒヤしながらやってんだ。簡単に言いやがるぜ!」
「でも食材以外の出費は確かに今月に入って上昇中ですね。ほら、帳簿のここ見たら分かりますよ。」
「ぐっ!な、なんだぁ?お前まで奴の味方か?」
「敵とか味方とか関係なくこの調子だとまた月末に地獄を垣間見る羽目になりそうですよ。」
「・・・や、やべぇじゃんか・・。」
「物凄いタイミングで絶妙なアドバイスを貰っておきながらまさかの逆切れ?」
「・・そ、そういうつもりは無ぇがよ、モノには言い方ってのがよぉ・・・」
「でも今値上げしないと私たちが本当に『値を上げて』しまいますよ?」
「そ、そんなにヤベェのか?」
「そもそも食材以外に毎月使用する金額って食材よりも多いんですよ。例えば家賃とか水道光熱費とかガソリン代に通信費、他にも弁当箱や車検・修理代金に食品のPL保険(通販・飲食・弁当)の3口分や消耗品の数々。これらが2%値上がりすると結構な金額になって、それが粗利から真っ先に引かれることになるんです。」
「・・・確かに。てか1年前のお前は社長になって過去3年間一度もそんな計算したことがなかったのに一体どうしたんだ!?」
「生まれ変わったのです。(° ꈊ °)✧キラーン」
「『先生』に経理指導をお願いしてかれこれ3年。誰よりも当店の実情に詳しく危険予知するとすぐに警告を発してくれる。こんな有難い人にいつまでも甘えていてはいけないと気が付いたのです!」
「そもそもお前が最初からキチンとしてれば奴にここまで言いたい放題言われることはなかったんだ。」
「心構えがまだ出来てなかったから仕方ありません。とにかく今後は私の経営計画に従ってくださいね。」
「偉そうに。理屈で分かっててもお客の心理はそう簡単に積商和差できるもんじゃねーんだよ!」
「ははぁ~ん。」
「な、なんだ?」
「自信がないのですね?ほんの少しの値上げでお客さんが離れてしまう程の実力しかないと。」
「なんだとー!!俺がこだわってるのは『健康的な食事を毎日食べ続けられる価格で提供すること』だ!」
「じゃあ良いではないですか。今残っているお客様はほとんどお得意様ばかりだし、田子作主人の熱烈なファンだし。」
「だからこそ『本当にこれで良いのか?』ってシビアに自問自答し続けてるんだよ!」
「でもお店が続かなければ一番困るのもお得意様ですよ?」
「・・・た、確かにな・・。」
「折角『絶対続けてくださいね!』とか『もっと適正な価格にしてくださいよ!』とか皆さん口をそろえて言ってくれてるのに田子作主人一人が意地になってるだけじゃないですか。」
「意地って訳じゃないけど、なんか悔しいだろ。」
「結局『先生』の言うとおりになることがですか?」
「ま、まあそうだな。」
「まるで子供の喧嘩ですね。呆れますよ。」
「俺だってコンサルの端くれだ。意地があって当たり前だろが!」
「田子作主人の場合は『アイデアのコンサルタント』であって経理のプロではないでしょ?『餅は餅屋』の言葉もありますから。」
「餅は餅屋か・・・。そう言えばあと2か月もしたら正月か。奴とも足掛け1000日以上の付き合いになるな。」
「そろそろお互いに素直になったら良い頃合いだと思いますよ。先生だって田子作主人の奇想天外なアイデアに舌を巻いてるんですから。」
「は?奴がそんなことを?」
「『認めたくないけどこんなに実用的で凄いアイデアが湧いてくる人が居るのが信じられない。』って言ってましたよ。」
「な、なんだ、分かってんじゃねぇか。ちっ、必要最低限だけお得意様に値上げのお願いをするか。」
『この国には素晴らしい諺があって助かりました。嘘も方便ってね。』( *´艸`)フフフ