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第7話 世界の管理者か破壊者か

築60年は経っていそうなオンボロな木造アパートの一階角部屋の前に立ち表札を何度も確認する『宇宙人エーコ』。

間違いなく表札には自分の名前が墨で書かれている。

「いきなり~!?」

不満を漏らしながらも恐る恐るドアを開ける。

「何これ?」

部屋の中に巨大なドーム状の金色の部屋がもう一つある。

「この部屋のどこに住めと言うのですか?」

部屋の四隅はドームによって切り取られたいささかの空間は残っているものの生活することはほぼ不可能と思われた。

仕方がないので金のドームのあちこちを触って扉かボタンなど、中に入る手がかりを探し始める。

しかしツルンとした金属の表面には傷一つない。

「えー?どう考えてもこのドームの中に入れってことですよね?どこから入れば良いのですか?もうすでにやる気を失い始めたんですけどぉ。」

両手を広げてドームに抱きつくような姿勢を取った瞬間、エーコの前の壁に大きな穴が開いた。

勢いそのままドーム内に倒れるエーコ。

「うわぁ!!・・・痛ーい!!」

顔面からドーム内の床に倒れ、したたかにおでこをぶつけたエーコが悲鳴を上げる。

おでこを摩さすりながら辺りを見回しエーコは驚いた。

「え?部屋よりかなり広いよね?しかも豪華!!」

ドーム内はどいう訳か実際の部屋の倍以上の広さがあり全体的にエーコ好みの緑色でまとめられた内装や家具たちがセンス良く配置されている。部屋の中心は円形状で一段低くなっている。入口の真向かい辺りにソファーが壁向きに置かれパソコンのような機器類がテーブルに置いてあるのが見えた。

「一体どうなってるの?」

キョロキョロと部屋を眺めまわしていると背後に何かの気配を感じ咄嗟に振り向いた。

エーコの顔面目掛けて何かが飛んできた。

「ピーーーチャン!!」

気配の主はボタンインコだった。

「あ、ピー太郎!!」

エーコは驚きながらもペットのピー太郎との再会を喜んだ。ピー太郎も嬉しそうにエーコの右肩へ泊った。

不意に丸い壁に特大のモニターが映し出された。

「どうじゃな?部屋の具合は。」

モニターには是有珠ぜうす社長が映し出されている。

「あ、社長!ビックリですぅ!!超気に入りましたココ!それにピー太郎まで連れてきてくれたのですね!ありがとうございます!!」

嬉しそうにエーコは是有珠に素直に礼を言う。

「ご両親にはワシの方から事情を説明しておいたから。それとこの次元世界で生きる上でいくつかの注意事項を伝えておくのでメモを取ると良い。」

そう言うと手書きの図や表を使って説明し始める是有珠。

・是有珠をはじめとする神族は物質的にこの次元世界の物質に直接的に影響を与えることは出来ない事。

・あくまで『ひらめき』や『偶然の出会い』と言った情報の形でしか人間を操ることが出来ない事。

・この次元世界に現在実存するエーコは神としての力は一切使えないこと。

・その代わりに会社が与える特殊機器を通じて時と他の並行世界のコントールが出来ること。

・一見するとパソコンにしか見えない『時と並行世界のコントローラー』を使って日常業務をすること。

・並行世界のどこかの世界の運営が悪化するとアラートが鳴り、1時間以内に修正しなければその並行世界は滅び、アドミニストレーターは罰として宇宙の彼方へ永久に幽閉される。

・緊急時のマニュアルの置いてある場所や内容の簡単な説明。

などなど重要事項の説明が一通りなされた。

「ふへぇ~、一気には全てを覚えきれそうにありません。」

胡坐あぐらをかいたままノートに書いたメモを見ながら頭を軽く抱えるエーコ。

「まずはマニュアル読んでコントローラーの使い方を覚えますぅ。」

早速本棚から持ってきたマニュアルを開いてパラパラと捲めくってみる。

10㎝はあろうかと思われる分厚いマニュアルは百科事典のように表紙も豪華で頑丈な作りになっている。

「それでは健闘を祈っておるぞ。」

是有珠がそう言うとモニター画面が立ち消えた。

「えっと私のプライベートは守られるのかな?」

マニュアルの『プライベート事項の取り決め』と言うページを見つけ出し隅々までエーコは読む。

「とりあえずよほどの緊急事態以外はこちらの呼びかけにしか応答できない事になってるのですね。ふむふむ。」

それから数時間、マニュアルと格闘を続け一読は済ませたエーコ。

「『並行世界位相角度』が各並行世界の近遠を表してて、『並行世界進行方向角度』がお互いの世界の進行方向の差を表してるのか。

時間経過やその他が酷似する世界でも世界そのものの方向性は別だったりするのか、知らんかった。

対向車線を走る車同士みたいなものかな?ふんふん。

そんでもって『世界秩序係数』が各世界のモラルの高低を決定するってね。

大体これくらいを弄いじってれば概ね何とかなりそうだな。

他の並行世界との間の行き来も自由に出来るのですね?」

ある程度の内容が頭に入ったエーコは慣らし運転に取り掛かる。

「それではとりあえずは平常運転から様子見をしよう。」

モニターを見ながら秩序係数のレベルをエンターキーを押しながら上げたり下げたりしているとアラートが鳴りだした。

「なるほどこっちのレバーとの関係で秩序レベルを下げるとアラートが速めに鳴るのかぁ。だからといって秩序レベルを上げ過ぎると社会運営がうまくいかずに危険なのね?ふんふん。」

そう言うとそれぞれのパラメーターを元の状態に戻す。

そうやって色々と弄りながらある程度の特性を感覚的に覚えて行く工学部出身のエーコ。

もともとこういう作業が嫌いではない工学女子。

「結構この仕事って私に合ってるかも?」

ボタンインコのピー太郎もご主人の頭や肩に飛び移りながらも大人しく様子を見守っている。

数時間のうちに大体の操作を覚えてしまったエーコは急に空腹であることに気が付いた。

「お腹が減った。コンビニで何か買ってこようかな。ピー太郎は迷子になるからここに居てね。」

大抵のインコは部屋の外に出ると元の部屋に戻るのが難しく野生化する前に他の大型の鳥に捕食される事が多い。

インコ好きのエーコはそこら辺の事情にも詳しかった。

ピー太郎の方もそんなことには慣れていたので殊更鳴き喚くわけでもなく首を傾げながらも大人しくしている。

「すぐ戻るからね!」

「ピーチャン!!」

どうやら了解したようである。

エーコは財布を持つとイソイソと部屋から這い出て行くのであった。

「どうでもいいけどまた入る時ってオデコ打つのかな?何か安全な方法を考えないとなぁ。」

部屋の鍵を掛けながらブツブツ言う。

しかしこの時点で大きな過ちを犯していることにエーコは気が付いていなかった。

『時と並行世界のコントローラー』の電源を落とさずに出てしまったのである。

ピー太郎は好奇心が強いうえに頭も良いインコである。

先ほどまでのご主人の動作を覚えている。

パタパタと羽ばたきしキーボードの上に舞い降りる。

体重がさほどないのでキーの上を歩いても入力には至らない。

だが嘴くちばしでマウスを動かし、あるボタンの上まで誘導し始めた。

もちろんその意味など理解する訳もないがとりあえずご主人のしていた動作を真似ているようである。

目的のボタンの上にマウスが到達すると今度は嘴くちばしでエンターキーをコンコンと小気味良く叩き始めた。

ボタンは『世界秩序レベル』の操作ボタンである。

ピー太郎はどうやらレベルマークがどんどん減ってゆく事に快感を覚えたようで一つまた一つとレベルを下げて行く。

ついに最低レベルに達し、それ以上マークが減らないのを見ると首を傾げる動作をして向こうのタンスの上に飛んで行ってしまった。

そこで毛づくろいをしているうちにウトウトと寝入ってしまったのである。

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