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第9話 ミッションインポッシブル

「早朝から身元不明の重症患者が運び込まれる緊急病院と言えばここら辺ではここしかないはず。」

3月に入って徐々に寒さも和らいできたとはいえ16時過ぎには気温も下がり始めている。

「うーお腹減ったぁ。寒いしぃ。」

プルプル震えながら大病院の自動ドアを潜ろうとしゴツンとおでこをぶつける。

「うー、またや。自動ドアが認識してくれん。」

お金をお下しに銀行へ立ち寄った際にも自動ドアが認識してくれずオデコをぶつけていたエーコだった。

「とうっ!!」

そこへ人が出てきたのですかさず飛び込む。

「ナースステーションはどこ?」

壁の院内地図を見つけると急いでナースステーションの場所をチェックする。

「もう面会時間ギリギリだよ。急がないと。」

ようやく本館2階のナースステーションにたどり着いたエーコは大芝居を打つ。

「す、すみません!」

必死の形相で看護婦を呼ぶ。

「どうしましたか?」

優しそうな看護婦はただならぬエーコの気配に小走りに駆け寄ってくれる。

「父が、父が行方不明なんです!今朝中年男性が緊急搬送されたと聞いて心配で来たのですが、何号室か教えてもらえませんか?」

心は痛むがここはなんとしても被害者の名前と顔を押さえたいエーコ。

「まあ大変!!とりあえずこちらの用紙にお名前と住所を記入して頂けますか?」

優しそうではあっても個人情報の取り扱いは厳密らしくいきなり壁に阻まれるエーコであった。

「え?急いでるんですけど・・・」

必死に知恵を絞るエーコ。

「ちょっと田岡さん!今朝搬送されてきた横池さんの状態が急変したのよ!なぜドクターを呼ばなかったの!!」

先輩らしい看護婦が受け付けの看護師を叱りつける。

『今朝搬送された?一か八かや!』

エーコは面会票の名前に『横池英子』と記入する。

「あ、やはりご親族様でしたか!住所はもういいです!急いで病室へ行きましょう!」

受付の看護師はエーコを促すと早足で病室を目指す。

病室の入り口に掛けられた名前には『横池 徹』と書いてあった。

『ヨッシャー!まずは名前ゲット!』

病室内は慌ただしく看護師たちが色んな機器を持ち込んでは患者に接続している。

看護婦たちの背中に隠れてなかなか顔が確認できない。

「お父さん!お父さん!!」

さらに芝居を打ってベッドの脇へと進む。

さすがに看護師たちも状況を把握したようで邪魔する者は居なかった。

男は完全に意識が無い。

酸素ボンベに繋がれているので顔がしっかり確認できない。

一計を案じたエーコはさらに芝居を続ける。

「え?何?何が言いたいの?マスクで良く聞こえないわ!少しだけ外すね!!」

鬼気迫る演技に看護婦たちは押されて数秒間手出しできなくなった。

そう言うとサッと酸素吸入用のマスクを外し男の顔全体を目に焼き付けるがごとくジロジロと見まわす。

「あのぉ、急がないとお父様が大変なことになりますので・・・」

若い男性看護師が恐る恐るエーコを宥なだめる。

「うん、うん、お父さん、分かった。じゃあまた後でね!外で待ってるからぁ~・・・」

最後は涙声で別れの挨拶をするエーコの肩をそっと掴んで廊下へ誘導する先ほどの看護師。

「きっと僕たちが助けて見せます!信じて待っててください。」

端正な顔立ちと細マッチョな体形でこんなことを言われたら大抵の女性はコロリといっちゃうんだろうなぁとイケメン嫌いのエーコは思うのであった。

嘘涙をぬぐい小さくコクリと頷いて見せるエーコ。

看護師が部屋に入るのを確認した途端、猛烈ダッシュで廊下を駆け抜ける。

途中看護婦に「廊下を走らないでください!!」と怒鳴られたがもう一刻の猶予もないエーコはオール無視である。

息せき切って部屋の金色ドームへ駆け込む。

ドサッ。

今度は入口の所にベッドマットを移動していたのでケガはない。

ベッドマットから這い降りるとコントローラへ急ぐ。

「位相角差が一億分の一で世界の向きが真逆の180度、経過時間がこの世界より6か月遅れで『横池 徹』がまだ生きてる世界を召喚!!」

今はただの人間のはずであるが目にもとまらぬ速さでキーボードを叩き目的の並行世界を見つけ出す。

「しまった!こっちに連れてきてる間の変わり身ロボットが要るんだった!!確かこれって3Dプリンター機能もついてたよね?」

ゴソゴソとマニュアルを取り出すと3Dプリンター活用法のページを物凄い速さで読み始める。

「3Dのひな型データーをネットで調達してパーツごとにプリントして組み立てるだけか!あとはAIチップと声発生器とイヤホンを付けて出来上がりっと!!」

高速プリンターで次々と作り出される手や足などのパーツ。

この場面に出くわしたらバラバラ殺人事件と間違われても不思議ではない。

だが工学部出身だけあってこういった工作はお手の物でわずか10数分で身代わりロボットは完成してしまった。ただエーコには美的センスがないので顔が人のそれとはかけ離れていた。

「顔はどうであれこいつを『横池 徹』として認識させるようにホログラムマスキングしておけば大丈夫!自分で夜中にこっそり充電するようにも設定してるし。」

まるでお掃除ロボ仕様である。

デスクの右の方にある透明な筒状のカプセルへロボットを連れて行き中へ入れた。

「じゃあ、半年間頑張ってくれ!」

右手で敬礼をすると扉を閉める。

「よし!じゃあ本人とチェーーーンジ!!」

エーコがエンターボタンを力強く推すとカプセルは光だした。

カプセルはヴィーーーーーーーーーンと唸りしばらくすると光が消えた。

カプセルの中は煙で充満されている。

エーコは立ち上がりカプセルの扉に顔を近づけ中を覗く。

ゴンッ!!

突然透明な扉に人の頭部がぶつかる。

一瞬驚いて飛び退いたエーコだったが恐る恐る扉に手を掛けてゆっくりと開ける。

煙が部屋へ流れ出る。ゆっくりと裸の男が前のめりに倒れ掛かってくるのを必死に抑えながら床へそっと寝かせる。

男は素っ裸の状態でうつ伏している。

顔を赤らめるエーコ。

「い、いかん!照れてる場合じゃない。早く初期設定をしなければ!!」

そう言うとまたもやコントローラーを操作し始めるエーコであった。

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