エピローグ
午前6時30分。
まだ近所のカフェ『コペラ』は開いてない。
9時の開店までは24時間営業のファミレスで時間を過ごす田子作。
とうとう完全に出入り禁止になった近くのファミレスのチェーン店で海の近くの平屋建ての店舗で執筆中の『田子作』。
例の如く、ドリンクコーナーの真ん前を陣取る。
7時30分過ぎに横の2つ向こうのテーブルに若い女性が座るのが田子作に見えた。
24~26歳くらいで白い服がとても似合う細身で端正な顔立ちの女性であった。
その時はそれほど気に掛けることも無かった田子作だった。
翌日は残念なことに中年の不潔そうな男性が定位置の座席を陣取っていたので仕方なく田子作は男が座る座席の高い衝立の背後の座席を選んだ。
隣は臭ってきそうで嫌だったのだ。
7時20分を過ぎた頃、背後の男性が席を立ち店を出ていった。
興が乗っていた田子作は座席を変えるのを忘れていた。
するとそこへ昨日の可愛らしい女性が入ってきた。
田子作が上目遣いでチラ見するのも気が付かずドリンクコーナーの方へ回り込む。
そして先ほどまで中年男性が座っていた、田子作と衝立を挟んで反対側の座席に腰を下ろした。
『あー、可哀想に。』
田子作は心の中で思ったが見も知らない自分がそんなことを告げ口するのも違うと思うので放置することにした。
何度目かのドリンクを注ぎに立つ田子作と入れ替わりでその女性がトイレに立ちすれ違う。
女性は微かに鼻を啜っているようだった。
「ん?花粉症?」
何となくそう思う田子作だったがそれほど気にもしなかった。
ドリンクをカップに注ぎ元の席に戻ろうと振り返った時、女性が開いたままにしたノートパソコンの画面が見えた。
『見ちゃいかんやろ』
とは思ったが一瞬でそれが『純情レストラン洗濯船』の目次ページであることが分かってしまった。
不可抗力ではあるが僅かな罪悪感を感じつつも嬉しさが込み上げてきた田子作。
自分の席に腰を下ろして少しすると女性が戻ってきた。
それに合わせて書き上げたばかりの最新話をアップする田子作。
「あっ!」
数十秒後、女性が小さく声を上げた。
最新話を発見したのだろう。
カチッ
微かに最新話のタイトルをクリックする音がする。
「そうか、そういうことか!」
一つ前の話は悲しいシーンだったことを思い出した田子作。
先ほど女性が鼻を鳴らしていたのはその話を読んで泣いていたのだと納得した。
更に最新話はもっと悲しい展開である。
女性の鼻を啜る音が激しくなった。
たった今トイレから戻ったばかりだと言うのにまた女性はトイレに立つ。
何だか申し訳ない気がしてきた田子作は女性がトイレに入ってる間に会計を済ませて帰宅するのであった。
第2作目の構想も執筆も午前9時まではこのファミレスでしようと考える田子作であった。