第12話 『ミステリアスな女』
「最初の一行で人が死に最後の一行で謎を解く。」
難しい顔をしてパソコン画面を睨みながら呟く田子作主人。
「何ですかソレ?」
唐突な発言に思わず反応した私。
「うちの弁当のお得意様でほら、居るだろミステリー作家のあの人。あの先生が推理小説を書く時のコツを教えてくれたんだよ。」
そういえば当店のお得意様に、某大手出版社で20年以上も作家として活躍していたという人がいました。
「毎日1話の物語を書くと決めたは良いが普通の生活の中でネタを探すのは大変だから何か物語を書く上でヒントになればと教えを請うたわけだ。が、これがなかなか、かえって難しくなってしまった。」
「しかもそんなことに使える時間は毎日10分ほどですからね。止めたらどうですか?」
商売と関係のないことになぜこだわるのか意味が分からない私。
「バカヤロー、男がやると決めたことをそう簡単に止められるかよ。」
田子作は口を尖らせて文句を言う。
プルルルルー
田子作の飲食店用携帯電話が鳴った。
「あ、もうこんな時間かよ。ほら、お前が出ろ。」
携帯の時計は午前8時30分を過ぎていた。
「はい洗濯船です!あ、毎度ありがとうございます!」
毎日夜弁おかずのみを購入いただいてるお得意様からの電話のようだった。
「はい、はい、今日も夜弁おかずのみ、おかず抜きですね!」
「エアー弁当か!おかずのみおかず抜きって何を食えって言うんだよ!」
「あ、間違えました!ご飯抜きですね!」
「全くお前が一番ミステリーだよ!」