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第24話 エーコの妙案

「どうすれば良いのですか?」

コントローラーを巧みに操りながら答えを探すエーコ。

先日の田子作部屋襲撃事件以来、近くのビジネスホテル住まいのエーコ。

田子作が一番恐れているのは自分が襲われることではない。

身近な人間が巻き添えを食うことであった。

自宅にはメモリー付き監視カメラをあちこちに設置してきた。

今度来ればバッチリ姿を捉えることが出来る手はずである。

エーコは条件や情報をどんどん追加入力してゆく。

『食品じゃない』『残り3か月で9000人以上に感動して誠の心を実践に移してもらうようにする』『使えるお金は10万円まで』キーボードを叩きながら『こんなの無理に決まってる』と諦めかけるエーコ。

画面に映し出された答えは

『答えは問いの中にある』であった。

「田子作さんと同じこと言ってるー!!神様仕様の機械のくせにぃ!!もっと分かりやすく教えろぉ!」

ふん!と鼻息を鳴らすとこの時間は自分の部屋で酔っぱらっているであろう田子作に電話する。

「とうとう残り3か月になっちゃったじゃないですか!どうやったら3か月で九千人以上の人に誠の心を実践してもらうつもりなんですか!?」

千人は実践してくれたようである。

「うるさいよお前。なんで3か月で九千人以上の人にそんなに感動して貰いたいんだよ?ここまで来るとしつこい新興宗教の勧誘だぞ!全ての答えは問いの中に隠れてるんだよ。自分で考えろ!!」

そう言い終わると田子作は電話を切ってしまった。

「ふぅーーーーん!!」

小さなデスクに向かったままコントローラーの蓋をバタンと閉じてしまうエーコ。

ベッドに背中から倒れ両腕を頭の後ろで組む。

天井を見つめながら頭を整理しはじめた。

「問いって『どうすれば3か月で九千人以上の人に感動して誠の心を実践してもらうか』じゃないですか。ん?ちょっと待てよ。問いが多すぎです。いくつかに分解したら?」

ベッドから飛び起きまたもやデスクに座る。

ノートを開き『問い』を分解して書き始める。

「まず『3か月以内に9千人以上の人とどこでどうやって出会うか?』、次に『出会えたとして彼らにどうやって誠の心とは何かを理解してもらうか』で最後に『その人たちが誠の心を理解できたとして喜んで実践に移してくれるか?』ですね。ふんふん、こうやってそれぞれの答えを考えれば良いのか。ではまず第一の問いから・・・」

何やらノートに描き始めるエーコ。

文字情報よりも彼女の場合は絵を描いた方が思考がまとまるようである。

傍目はためにはさっぱり意味不明な図が次々と描き込まれてゆく。

さながら小学生の落書きにしか見えない代物しろものであった。

一方田子作は暴漢対策に余念がない。

部屋の外には赤外線センサー付きのカメラをセットし、庭には落とし穴を掘りその上には毟むしり取った庭の雑草を軽く乗せ蓋にし、窓の下にはネット通販で購入したマキビシを雑草の中に仕込ませている。

念のために服の下には分厚い電話帳を仕込み刃物対策もしていた。

「来るなら来やがれ。目にもの見せてやる!!」

珍しくこの夜は一滴もアルコールを飲んでいない田子作である。

「いやぁー疲れたぁー!!」

ドテッといつものごとく洗濯船のテーブルにうつ伏せに倒れる虎下尚一とらしたしょういち。

「今日もお疲れだねぇ~。ふわぁ~。」

欠伸あくびを隠せない田子作。

「あれ?田子作さんも珍しく疲れてないですか?」

顔だけ挙げて尋ねる虎下。

「私も寝不足なんですぅふあ~・・・」

エーコも加わる。

「どうしたんですか?あれ?もしかして?!」

急に好奇心に火が付いた虎下は身を起こす。

「何考えてんだよ。先日さ夜中に暴漢に襲われたんだよ。それ以来毎晩襲撃に備えてるから寝不足になってんだよ。」

「じゃあエーコさんはなぜ?」

なんだぁとつまらなさそうな顔に戻る虎下にエーコが今度は答えた。

「私は重大な問いの答えを問いの中から発掘中なので眠れないのです。ふゎあ~・・・」

今度はエーコが欠伸あくびを漏らす。

「何ですかその『重大な問い』って?」

まるで話が見えてこない虎下はエーコの答えを聞きたくなった。

「『どうしたら今後3か月で九千人以上の人に感動してもらって『誠の心』を実践してもらうか』と言うものです。」

ますます頭が混乱してきた虎下は更に踏み込んだ質問をする。

「誠の心ってなんなんですか??」

「神様から見て『人としてあるべき心』のことです。それを実践に移す具体的方法としてはそこに掲げてある『洗濯船的開運法』であったり田子作さんの誠の心の籠ったお弁当を食べることなんですよ。」

「ますます意味が分からなくなりました。何でそんなことになったんです?」

「そもそもは人生の大目標を立てようてことだったんだけど、ここんところエーコの奴が『数字で見える小目標が必要だ』って言い出してさ、なぜか10月までに1万人に『誠の心』てのを理解してもらった上で実践に移してもらうんだって力んでんだよ。」

目を擦りながら虎下に応える田子作は椅子に腰を下ろした。

「これくらいの目標が達成できないで大目標なんか達成できるわけがありません!」

「でも何で10月までなんですか?今年一杯でも良いのでは?」

不思議そうな表情でエーコを見る虎下に少し顔が引きつるエーコ。

『駄目だ、このままでは台無しになってしまう。誠の心を実践する人を増やすことに疑問を抱かないようにこいつら設定し直してやる!』

「とにかく半年間で達成する覚悟が必要なのです!」

必死に反論するエーコに違和感を感じる男二人。

「そうなんですか。エーコさんがそこまで拘こだわるんならそうなんでしょうね。」

面倒臭くなった虎下は他人事だと割り切ることにした。

「1か月3000人超か・・・ん?どこかで聞いたような数字だなぁ。」

虎下は思い当たる節があるのか考え始めた。

「え!?何か心当たりが?」

エーコは急に身を乗り出す。

「あ、そっか。うちのネット通販の一か月あたりの新規客の数だ。」

米粉パンの通販では全国トップの店舗店主の虎下。

「そ、そうなのですか!!」

エーコの目が輝きを増す。

余計なことを口走ってしまったと我に返る虎下だったが時はすでに遅かった。

エーコは虎下の腕を掴みウンウンと大きく頷いている。

「こ、怖いんですけどエーコさん・・・」

元ボディーガードの屈強な体格の虎下でも今のエーコは計り知れない脅威を感じさせるのであった。

「一体何がしたいんだお前は?」

田子作が助け舟を出す。

「私に良い考えがあります。説明しますね・・・」

エーコは昨夜のノートを広げ二人に今後の段取りを説明し始めた。

小一時間もした頃に虎下が唸った。

「凄い計画ですねぇ。もしかしたらイケるかもしれませんね!しかもお互いにメリットも大きいし。」

感心しきりの虎下に自慢げに鼻をフフンと鳴らすエーコである。

「まあ悪い話じゃないがな。果たしてそんなに都合良く事が運ぶかな?」

どこか冷めている田子作にエーコがキッと睨む。

「行動に移す前からそんな弱気でどうするのですか!!田子作さん、しっかりしてください!!」

田子作はエーコの剣幕に肩を窄すぼめるのだった。

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