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第26話 西田原参上?

「ぐぅおーーっ!!」

激痛に堪え切れずに雄たけびを上げる西田原。

目は充血し口からは涎よだれが流れ落ちている。

「どうして僕だけがこんな目に遭うんだ・・・はぁはぁはぁ・・・」

ベッドで蹲うずくまる西田原。

どうやらまた大きな地震が来るようである。

数時間後ようやく歩けるほどに回復した西田原は音を潜ひそめてそっと玄関の扉を開ける。

足音を鳴らさないように静かに廊下へ躍り出る。

ドアも慎重にゆっくりと閉めて鍵を掛けた。

階下へ降り、ようやく道路へ出た西田原は人に見られていないかマンションを振り返り見上げる。

23時を過ぎていたこともあり誰にも気づかれていないようであった。

「よりにもよって何で僕がこんな事しなきゃいけないんですか!」

誰に対する文句か分からない事を呟くと通りを急ぎ足で歩いてゆく。

「ピー太郎大丈夫かな?」

ホテルの部屋のベッドに寝転ぶエーコは田子作に預けて来たピー太郎が心配になって眠れないでいる。

「いよいよ明日から計画が始動です。今度こそきっと成功するはず!あ、そうだ。監視カメラに何か映ってるかも?」

そう言うとデスクのコントローラーの電源を入れモニターアプリを開く。

自宅に設置した複数の監視カメラをネット回線を通じて遠隔操作している。

エーコは過去24時間の映像を100倍速で見始めた。

何も映っていなければ殆ど動きが無いので十数分もすれば見終えるはずである。

「ん?」

画面に一瞬黒い影のようなものが映った気がした。

もう一度巻き戻して確認するエーコ。

「え?えーーーーーーーっ!!なんでー!!」

慌てたエーコは深夜1時を過ぎていることを忘れて田子作の携帯電話を鳴らす。

一方田子作はここ数日の疲れから熟睡中であった。

夜間には鳥かごにタオルケットを掛けられて強制的に眠らされるピー太郎が携帯音で目を覚ました。

「ピーチャン!!ピーチャン!」

携帯電話はメッセージを録音中であったがすっかり眠りを邪魔されたピー太郎はしつこく鳴きだした。

「んあ?なんだよ、うるせーぞピー太郎。むにゃむにゃ・・・」

久しぶりのアルコールのせいもあり田子作は再び眠りについてしまったのだった。

「なんだとー!!あのクソがぁ!!」

翌朝店に着くなりエーコに昨夜のことを聞かされて怒り心頭の田子作。

「何でその時に電話して来なかったんだよ!!」

「しました!したけど出なかったでしょ!!」

エーコに言い返され自分の携帯電話を確認する田子作。

「お、着信がある。しかも留守電も入ってるし。」

「だから言ったじゃないですか!」

「しかし一体何しに奴はお前の部屋に侵入したんだ?何か取られたものは無いのか?」

「それを確かめるのに一人じゃ怖いから一緒に行ってください。」

「仕方ねぇなあ。今日は昼から営業だな。立て看板にも書いておこう。」

通常9時開店のレストラン洗濯船であったが、事態が事態だけにすぐに調査に出かけることにしたのだった。

田子作達のボロアパートは店から徒歩で10分くらいの位置にある。

エーコは恐る恐るドアのカギを開ける。

「やっぱり!」

鍵はすでに開いていた。

今度は慎重にドアをゆっくり開ける。

金ぴかドームの余白のような空間には誰も居ない。

問題はどうやって侵入者がこのドームの開け方を知っていたのかである。

ドーム内に入った途端に襲われる可能性もある。

仕方がないと諦めたエーコは田子作に両手を広げて自分の前に立つようにお願いする。

「こうか?」

身長差20㎝、体重差20kg、年齢差20歳の田子作をドームの前に立たせエーコは背中を思い切り蹴った。

「おわっ!!」

田子作の前の壁がぽっかりと大きく開いて室内へ倒れ込む。

ドサッ

無事ベッドに倒れ込んだ田子作。

一瞬何が起こったのか理解できずにいた。

「誰も居ませんか?」

すかさずエーコが質問する。

円形の豪華な室内を見回す田子作。

「おう。誰も居ないぞ。てか、さっき俺の背中を蹴ったよな?」

「しっ、それより何か取られていないか調べないと。」

エーコも部屋に入ってきた。

数日前からビジネスホテルのアルバイトを始めていた西田原。

週2日で一日3時間ほどなら何とか働けるだろうとある人の依頼で無理して働き始めたのだった。

ホテルにはかつて知ったるエーコが宿泊している。

バイトに入ったその日に宿泊客名簿で知ったのだった。

西田原はホテルの合鍵で堂々とエーコの部屋に入る。

徐おもむろにデスクの上のコントローラーを開き手慣れた手つきでキーを叩く。

数分の間コントローラーで何かの作業をしていた西田原の手が止まった。

「これで良し!もうしばらくはこんな仕事は嫌ですからね!!」

念を押す様に人差し指を立てて天井に向かって文句を言う。

傍から見るとかなりクレイジーな状況である。

「おかしいですねぇ。何も取られていないですぅ。ん??何してるんですか?」

エーコは田子作が壁際に立っているガラスのような透明なカプセルをジロジロと見まわしている。

「これ何だ?」

田子作はエーコに聞いた。

「そ、それは最新式のお風呂です。見ないでくださいエッチです!!」

即座に嘘をつくエーコ。

「へぇー、お前金持ちなんだな?時給下げようかな?」

エーコは共同経営者ではあるが売り上げが低い店なので時給換算で給料を貰っている。

「冗談じゃないです!これ以上下げられたら生きて行けませんよ。」

本気で怒るエーコに冗談だと田子作は笑って誤魔化した。

「とりあえず何も取られてないんだったら帰るぞ。」

そう言うと田子作はベッドの上に乗る。

エーコも続こうとした時、

ゴゥーーーーーーーッ

物凄い地響きと同時に床がユッサユッサと大きく揺れ始めた。

「地震だ!!うおぉー!!」

足のもつれた二人は抱き合うようにベッドに倒れてしまった。

十数秒後、揺れは収まった。

エーコの上に覆いかぶさるように倒れた田子作とエーコは見つめ合う。

「ぬぉーーーーーーっ!!」

ガバッと横向きに倒れ田子作が両手で股間を押さえて転げまわる。

「あ、すみません。つい・・・」

野生動物並みの反射神経で覆い被さってくる田子作の金的にエーコの右膝のカウンターキックが決まったのであった。

「あほがーーーーー!!」

転げまわりながらうめき声を漏らす田子作の声がドーム内に響くのであった。

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